
― 空間演出と実用性を両立させるコツとは?
レストランの内装は、料理の味やサービスと同じくらい、お店の印象を左右する重要な要素です。お客様が扉を開けた瞬間に感じる「雰囲気」は、五感のうちの視覚に訴えかけ、料理そのものの価値まで引き上げてくれる力があります。内装が素敵なお店は、SNSで話題になったり、リピーターが増えたりと、集客や売上にも良い影響を与えるのです。
今回は、実際の事例を交えながら、レストランの内装デザインで押さえておきたいポイントをご紹介していきます。業態別の工夫から、基本の設計ルール、最近のトレンドまで、幅広く解説しますので、これからお店を始める方やリニューアルを検討中の方はぜひ参考にしてみてください。
業態別に見る内装の工夫と成功のヒント
フレンチレストラン:伝統×モダンの組み合わせで魅せる
フレンチレストランとひと口にいっても、高級店とカジュアル店では内装の方向性が大きく異なります。
格式ある高級フレンチでは、18世紀のヨーロッパ宮廷を思わせるクラシックなデザインが主流です。猫脚のアンティーク家具、シャンデリア、金装飾のミラー、ダマスク柄の壁紙などを取り入れ、非日常的な華やかさを演出します。照明は直接照らさず、間接照明で空間全体に柔らかい光をまとうようにすると、上品な雰囲気が際立ちます。壁やカーテンはベージュや淡いゴールド系でまとめると、落ち着きと高級感が生まれます。
一方、カジュアルなビストロでは、もう少し親しみやすく、温かみのある空間が好まれます。例えば、レンガ調の壁に木のテーブル、メタル製のチェアを合わせると、ラフで居心地のよい雰囲気に。古材風の床材やペンダントライトを使うと、ほどよくトレンド感のあるデザインになります。店内の照明はやや明るめに設定し、テーブルの配置は少し密集させることで、活気とにぎわいを演出できます。
イタリアンレストラン:地域ごとの“らしさ”を反映させる
イタリアンレストランの魅力は、イタリア各地の特色を空間に反映しやすい点にあります。
例えば北イタリアの高級リストランテをイメージする場合は、モダンで洗練されたデザインが合います。大理石やメタルなどの無機質な素材を使い、直線的な家具や照明でシャープさを演出。壁や床はグレージュやチャコールグレーといった落ち着いた色でまとめると、大人っぽく仕上がります。
一方、南イタリアの陽気なトラットリア風にするなら、もっとカジュアルで温かみのある雰囲気を目指しましょう。テラコッタ調の床や壁、手描き風のタイル、ぶどうモチーフの装飾などがよく似合います。照明は少し黄みがかった電球色を選び、木のテーブルやラタン素材の椅子を使うと、まるで地元の食堂にいるようなアットホームな空間に。
最近では「エノテカ・リストランテ」というワイン重視の業態も増えています。ワインセラーをガラス張りで見せたり、樽をディスプレイやテーブル代わりに使ったりと、空間全体で“ワインの世界”を演出する工夫が注目されています。壁にワイナリーの地図を描いたり、木のツタを使ったグリーン装飾を取り入れるのも効果的です。
中華料理店:伝統とモダンの融合がポイント
中華料理店の内装で大切なのは、「色づかい」と「素材選び」です。
伝統的な中華料理店といえば、赤・金・黒の組み合わせが定番。赤は縁起がよく、食欲を高める色でもあるため、看板や入り口などに効果的に取り入れたいところです。ただし、最近の高級中華では、あえて赤を抑えめに使い、黒やダークグレーを基調にしたシックなデザインが主流となっています。空間全体は落ち着いた色でまとめ、ポイントで赤を効かせることで洗練された印象に仕上がります。
たとえば、壁面を黒のタイルで統一し、そこに金の格子や書道風のアートを配置。照明は赤いランタン型を一つだけ吊るしてアクセントにする、という手法も人気です。また、油を多く使う中華では、内装材の選定も重要。吸油性の高い壁材や、掃除しやすい床材を選ぶことで、清潔感を保ちやすくなります。
内装づくりで押さえておきたい5つの基本ルール
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明確なコンセプトを持ち、全体を統一する
「モロッコ風の隠れ家」「都会的な和モダン」など、空間のテーマを明確にすることで、壁材や照明、小物類の選定がブレにくくなります。 -
お客様もスタッフも動きやすい設計を
理想的なテーブル間隔は120cm以上。ホールの通路は最低でも90cmを確保すると、スタッフも安心して動けます。椅子とテーブルの高さや、カウンターの奥行きも細かくチェックを。 -
照明は“空間の演出装置”と考える
照明は明るさだけでなく「空気感」を左右する要素です。高級店では「プール・オブ・ライト」と呼ばれる、テーブルだけを照らす照明手法が有効。逆にカジュアルなお店は全体をやや明るめにして開放感を出すとよいでしょう。 -
音環境にも気を配る
店内が騒がしすぎると会話がしづらく、居心地が悪くなってしまいます。吸音効果のある天井材やカーペット、厚手のカーテンなどを取り入れると、音の反響を抑えられます。 -
清掃性・安全性・サステナビリティを意識した素材選び
汚れが落ちやすい床材、防火性能のある壁材、低VOC塗料など、機能性と環境配慮を両立させた素材選びがこれからのスタンダード。竹やリサイクルウッドなど、自然素材の活用も注目されています。
実際の設計段階で意識したいポイント
モックアップで“体験してみる”ことの重要性
図面上で完璧に見えても、実際に体験してみると「意外と狭い」「照明が強すぎる」といったズレが出ることがあります。可能であれば、実寸サイズでモックアップを作って、家具や照明、動線の確認を行いましょう。体感することで、設計段階では見えなかった改善点が浮き彫りになります。
多角的な視点でのチェックがカギ
お客様目線での動線や視線の抜け方、スタッフ目線での作業効率や収納の配置、清掃スタッフの立場で見た掃除のしやすさなど、さまざまな立場でシミュレーションすることが、長く愛されるお店づくりにつながります。
柔軟な空間設計で、将来の変化にも備える
業態変更やメニューの刷新、イベント利用への対応など、飲食店には柔軟性も求められます。移動可能な間仕切りや可変式の家具、照明や音響の自由度などを設計に組み込んでおくと、将来的なリニューアルもスムーズです。
トレンド:体験型と環境配慮がカギに
最近では、プロジェクションマッピングやAR(拡張現実)を活用した“体験型レストラン”も登場しています。壁やテーブルに映像を投影して季節感やストーリーを演出することで、お客様に強い印象を残せます。海外では、ディナーとともに仮想の冒険旅行を楽しめるレストランも話題です。
さらに、“自然との調和”をテーマにしたバイオフィリックデザインも注目されています。店内に本物の植物を取り入れたり、木材や石を使った内装で、リラックスできる雰囲気を演出したりと、都市部でも“癒し”を感じられる空間づくりが求められています。
内装業者を選ぶときのポイント
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飲食店の施工実績が豊富である
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厨房や空調などの専門設備に詳しい
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衛生管理(HACCPなど)に対応した設計ができる
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デザインだけでなく、メンテナンスやアフターケアも含めた提案力がある
数社に見積もりを依頼し、提案の内容・現場対応力・価格のバランスを比較するのが成功のコツです。
まとめ:内装は、料理と同じくらい“記憶に残る”要素
レストランの内装は、料理やサービスと一体となって、お客様の記憶に残る「体験」をつくりあげる大切な要素です。コンセプトを明確にし、快適さや使いやすさにも気を配りながら、世界観を丁寧に設計することが、長く愛されるお店づくりにつながります。
将来を見据え、柔軟性と持続可能性も意識したデザインで、あなただけの「特別な空間」をつくってみてはいかがでしょうか。